実演会では「お雛さま」のこと、「お節句」のこと、「文化」のこと、「作り手の思い」なんかを【ツクル】を見ていただきながらお話しをさせていただいています。
ときにはお話しに夢中になって手を動かすことも忘れてしまうくらいお客さまとのお話しが本当に楽しい時間なんです。
そんな実演会に昨年来られたお客さまのお話し。
いつものことですが、【やり残しのないように】【後悔しないように】と一層気を引き締めて舞台に座って実演しておりました。
その日の実演も残り1時間ほどのころに、二人の男の子を連れたパパさんがやってこられました。
いつものように製作をご覧いただきながら、時には冗談なんかも話しつつ楽しい時間を過ごさせていただいておりました。
寿峰 「ところでお雛さまはもうお決めになられましたか?」
パパさん 「はい。このお雛さまにしようと思っています。」
指をさされたのは私どものお雛さま。
寿峰 「ありがとうございます!あちらのお雛さまは『橘』の文様の帯を使っていまして、古来より柑橘類は【太陽】を表しています。そこには【繁栄】と【長寿】を意味するものすごく願いの詰まったお衣装を着たお雛さんなんです。」
パパさん 「そうなんですか!実は今日は購入ではなくて予約だけして帰るつもりなんです。」
寿峰 「そうなんですね。ほかに候補があるとかでしょうか?」
パパさん 「いや、実は娘がまだ退院してなくって。」
寿峰 「え?お嬢さんどうされたんですか?」
パパさん 「生まれつき心臓が悪くって、まだ生まれてから家には帰ってきてないんです。」「このあと大きな手術なんで、それでその手術が成功すれば改めて買いに来ようと思ってたんですが・・・・やっぱりそうですよね!今日、決めて帰ります!」
寿峰 「え!?いいんですか?」
パパさん 「はい!そもそも私と家内がこのお雛さんを気に入ってましたし、意味を聞いてますます気に入りました。それに娘が帰ってきたときにお雛さんと一緒に迎えてやりたいと思いましたので!」
寿峰 「ありがとうございます!この子たちもお嬢さまの『おとも』をしっかりしますので安心してください!」
パパさん 「ありがとうございます!今日、ここに来てよかった!」
寿峰 「お嬢さんのお名前は?」
パパさん 「〇〇です。」
寿峰 「わかりました。しっかりお供するようお雛さんに伝えておきますね!」
パパさん 「是非!お願いします!」
そんなやり取りで二人のお兄ちゃんを連れて笑顔で帰られました。
そして一年後の今年。
同じお店の売り場で座っていいると見覚えのあるお顔が!
パパさん 「ご無沙汰しております!元気になった姿を見せにきました!」「あとで一緒に写真を撮ってもらえませんか?」
寿峰 「うわー、ありがとうございます!〇〇ちゃん、元気になられたんですか!!!」
パパさん 「いえ、まだあと2回大きな手術を受けないといけないんです。特に次の手術が今月ありまして、今週から検査入院をします。」
寿峰 「そうなんですね・・・」
パパさん 「でも去年、お雛さまと一緒に迎えたからお陰様ですくすくと育っています。それに無事に初節句もできたし、こうやって元気に過ごしてます。」
パパさん 「次もありますけど、お雛さんがついててくれるので安心してます。」
寿峰 「そう言っていただけると・・・・」
パパさん 「一緒にお写真良いですか?」
寿峰 「よろこんで!!!!」
このあとしばらくお話をしたあと、笑顔で帰っていかれました。
小さな体で病気と闘う姿に思いっきりウルっとしましたが、元気なお兄ちゃんたちはじめパパさんとママさんの明るい笑顔がすごく素敵でした。
「お雛さん」は【人形】です。
日本の人形を遡れば、いつの世でも子どもたちの【成長】や【健康】そして家族の【繁栄】を願う人たちの思いが詰まっています。
その中の「お雛さま」は、節目を祝う「祭り」としてのお役だけでなく、お嬢さまの健やかな成長のために「邪」となるものを「除けて」くれるのも大きな役割のひとつです。新たに授かられたお子様のためにも家族の【願い】や【思い】の詰まった、その子のための「お雛さま」をご用意されることの大切さを今まで以上に強く感じました。
作り手としては「モノの意味を理解し一生懸命お作りする」ことを信条にしてきましたが、そこに「家族のオモイ=魂」が吹き込まれて初めてそのお雛さんのお役である「依代的存在」が出来上がると思っています。
今回のご家族の話しはわたしの思う「お雛さん」本来のお役を全うしてくれている気がしてならないのですし、お作りしたお雛さんがご家族の皆さまにそのように思われているのをお聞きして「作り手冥利」を感じた瞬間でもありましたので是非、知っていただきたく書かせていただきました。
駄文ではございますが最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。
引き続き、良い「お雛さん」をお作りして参りますのでよろしくお願い申し上げます。
平安 寿峰 拝